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広島高等裁判所 昭和41年(行コ)2号 判決 1968年5月16日

控訴人(原告) 水戸川源二

被控訴人(被告) 広島県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三五年六月三〇日訴外吉和漁業協同組合に対してなした公衆浴場営業許可処分の無効を確認する。右の請求が理由のないときは、右営業許可処分を取り消す。被控訴人が昭和三七年一月二三日控訴人に対してなした公衆浴場営業不許可処分を取り消す。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、原判決中「渡辺徳造」とあるのを「渡部徳造」と訂正し、次に掲げる一、二、三を附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一、控訴代理人は、次のように述べた。

(一)  原判決二枚目表二行以降に「公衆浴場営業許可申請をした」とあるのを、「公衆浴場営業許可申請をし、同日受理された」と、同五行目に「六月一一日になした」とあるのを、「六月一一日受理された」と、原判決三枚目表四行に「浴場設置場所を変更した」とあるのを、「浴場設置場所を変更し、同日受理された」と、それぞれ、訂正する。

(二)  公衆浴場営業許可申請は、昭和二三年厚生省令第二七号公衆浴場法施行規則第一条、昭和二五年広島県規則第一四六号公衆浴場法施行細則第二条第一項に定める方式を具備した申請書を提出してなすべきものであり、右申請書には、設置しようとする公衆浴場の本屋と近接の既設の公衆浴場の本屋とを結ぶ線の長さを明示した図面を添付しなければならないことになつている。

本件の場合、訴外吉和漁業協同組合の公衆浴場営業許可申請書に添付すべき図面は、訴外組合が設置しようとする浴場の設置の場所と既設浴場の設置の場所との間の地形がゆるやかな彎曲を示しており、また、家屋等の密集した障害物があるので、平板測量では右の各浴場の設置の場所の間の距離を実測することができないから、閉合トラバース測量による測量図面でなければならない。このような場合に、申請書に平板測量による測量図面を添付しても、右申請は、その方式を具備したことにはならない。

さらに、右細則第三条によれば、知事は、その申請が公衆衛生上支障がないと認めたものに限り受理するものとされている。したがつて、右申請は、提出された申請書について適法且つ有効であると認められ、受理されて、はじめてその効力を生ずるものといわねばならない。

控訴人の許可申請は、昭和三四年六月八日に受理されたから、その時に効力を生じたのである。これに対し、訴外組合の許可申請は、同月六日、申請書が提出されたけれども、右細則第二条第一項第四号所定の図面が添付されていなかつたため、その方式を具備しないことにより、無効の申請として受理されなかつたのである。そして、訴外組合の右申請は、同月一一日に至つて受理されたのであるが、これによつて、右申請の効力は、同日以降将来に向つてのみ生ずべきものであり、既往の同月六日に遡つて生ずべきものではないのである。

(三)  前記のように、公衆浴場営業許可申請書に添付すべき図面は、閉合トラバース測量による測量図面に限られているのに拘らず、この方式によらないで、平板測量による測量図面を添付してなした訴外組合の前記申請は不適法である。しかるに、被控訴人が、訴外組合の右申請を受理し、これに対してなした本件営業許可処分は違法である。

(四)  控訴人は、被控訴人の本件営業許可処分について、昭和三五年七月、厚生大臣に訴願をなしたが、いまだに裁決が行われない。このことからみても、本件許可処分が違法であることは明らかである。

二、被控訴代理人は、次のように述べた。

(一)  被控訴人は、昭和三四年六月六日、訴外組合の公衆浴場営業許可申請を受理したのである。

(二)  公衆浴場法施行細則第二条第一項第四号の規定は、申請書に図面の添付を要求しているに止まり、右図面が閉合トラバース測量による測量図面であることを必要としているものではない。このことは、甲第一八号証の行政通達によつても明らかである。右通達は、単なる行政方針を定めたものであつて、特定の場合に閉合トラバース測量による測量図面を添付させるように指導されたいというに止まるものである。そして、本件では、訴外組合が本件申請書に添付した平板測量図面は、測量士大本常晴が作成したものであり、また、訴外組合が設置しようとする浴場の設置の場所と既設の浴場の設置の場所との間の距離が三〇〇メートル以上あることは、控訴人が昭和三四年六月八日提出した公衆浴場営業許可申請書添付の図面(乙第一号証の三)によつても明白であつたから、その上閉合トラバース測量による測量図面を必要としないのである。

三、(証拠省略)

理由

第一、訴外吉和漁業協同組合に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認請求について。

被控訴人は、公衆浴場法第二条第一項による公衆浴場営業の許可申請について、二日の差をもつて競願関係になつた場合、先願と後願のうちいずれに対して許可するかは、都道府県知事の自由裁量処分であつて、裁判所の審判の対象にはならないから、本件訴は、不適法である旨主張するけれども、たとえ、行政庁の自由裁量処分であつても、その裁量権の限界を超えて法の目的に反することが明白な場合には違法となるのであるから、自由裁量処分であるからといつて、裁判所の審判の対象にならないとはいえない。したがつて、被控訴人のこの点の主張は採用することができない。

また、被控訴人は、控訴人が訴外吉和漁業協同組合に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める訴の利益を有しない旨主張するけれども、違法な行政処分の無効確認を求める訴を提起するには、その処分の無効確認を求めるについて何等かの具体的な利益を有する限り、必ずしもその処分の相手方であることを要しない。控訴人は、被控訴人に対して公衆浴場営業の許可申請をなしている者であり、しかも、その許可申請が訴外組合の許可申請に対して先願関係にあるにも拘らず、被控訴人が控訴人を差し置いて訴外組合に対して本件営業許可処分をなし、これによつて控訴人の先願権を侵害したというのであるから、控訴人が、本件営業許可処分の違法を主張して、その無効確認を求める法律上の利益がないとはいえない。そうしてみると、被控訴人のこの点の主張も採用することができない。

そこで、本案について、控訴人主張の本件営業許可処分の違法事由の有無を検討する。

控訴人が、昭和三四年六月八日、被控訴人に対して、尾道市吉和町字正徳浜七五番地の一四を浴場の設置の場所とする公衆浴場営業許可申請をなし、同日受理されたこと、これと前後して、訴外組合が、被控訴人に対して、控訴人の右浴場の設置の場所から一〇メートル以内の距離にある同所七四番地の五を浴場の設置の場所とする公衆浴場営業許可申請をなし、受理されたこと、被控訴人が昭和三五年六月三〇日訴外組合の右申請を許可してことは、当事者間に争いがない。

控訴人は、訴外組合の右営業許可申請が受理されたのは昭和三四年六月一一日であると主張し、被控訴人は、同月六日であると主張して争うので、この点についてしらべてみる。

公衆浴場法第二条第一項によれば、「業として公衆浴場を経営しようとする者は、(中略)都道府県知事の許可を受けなければならない。」とあり、昭和二三年厚生省令第二七号公衆浴場法施行規則第一条によれば、「公衆浴場法第二条第一項の規定により許可を受けようとする者は、左に掲げる事項を記載した申請書を、その公衆浴場所在地を管轄する都道府県知事に提出しなければならない。(以下省略)」とあり、昭和二五年広島県規則第一四六号公衆浴場法施行規則第二条第一項によれば、「省令第一条の規定による申請書は、別紙様式第一号により、次に掲げる書類を添え、正副二通を知事に提出しなければならない。一、建物の配置図及び平面図(以下省略)二、浴そうの構造の大要及び平面図(以下省略)三、設置しようとする公衆浴場の附近の見取図 四、設置しようとする公衆浴場の本屋と近接の既設の公衆浴場の本屋とを結ぶ線の長さを明示した図面(別紙様式省略)」とあり、第三条第一項に、「知事は、前条第二項の規定により工事着手前に申請書が提出せられた場合においては、その設置の場所及び構造設備が公衆衛生上支障がないと認めたものに限り、これを受理するものとし、受理したときは申請者にその旨を通知する。」と規定されている。

これによつてみると、公衆浴場営業許可申請は、いわゆる要式行為であり、これが有効になされたとするためには、申請者において所定の方式によつて申請書を提出すべきことはいうまでもないが、ただ、単に、その申請が事実上行政庁に到達しただけでは十分でなく、さらに、行政庁において、その申請が所定の方式を具備するかどうか、その他所要の点について審査した上、適法且つ有効であると認めてこれを受理することを要するものと解する。

ところで、成立に争いのない甲第二号証の二によれば、訴外組合の右営業許可申請書に広島県立尾道保健所の昭和三四年六月一一日の受付印が押捺されていることは明らかであるが、原本の存在と成立に争いのない甲第一八号証、成立に争いのない甲第二四号証、乙第一号証の二、乙第二号証の一、乙第七、第八、第九、第一一号証、原審証人山本一四の証言によつて成立を認め得る乙第一〇号証、原審証人山本一四、玄場時太郎、久保満、原審および当審証人古川昇の各証言によれば、次の事実を認めることができる。

訴外組合は、昭和三四年度農山漁村振興特別助成事業実施のため、生活改善共同施設として共同浴場の設置を計画し、昭和三四年二月一一日の通常総会において、これに関する第五号議案について組合員の承認を得たので、組合として最も便利な尾道市吉和町三〇九番地の四を浴場の設置の場所に予定したが、公衆浴場法第二条第二、三項、公衆浴場法施行条例第一条第一項所定の公衆浴場の配置基準に照らして不適当であるというので、浴場の設置の場所を同所七四番地の五と定め、昭和三四年六月三日、その旨の公衆浴場営業許可申請書を右保健所に提出した。同保健所公衆衛生課において右申請書を審査したところ、これに添付した図面が、既製の地図にコンパスで半径三〇〇メートルの円を記入したに過ぎないものであつたので、右保健所の係員は、閉合トラバース測量による測量図面を添付するように指示して、提出書類全部を返戻した。訴外組合では、昭和三四年六月六日、再び右と同じ場所を浴場の設置の場所とする公衆浴場営業許可申請書を右保健所に提出した。右申請書には測量士の有資格者が作成した平板測量による測量図面が添付され、その図面に三二〇メートルの距離の記入はなされていたが、計算書が附記されていなかつたので、右保健所の係員は、さらに、計算書を附記するようにいつて、その図面だけを持ち帰らせ、その他の書類はそのまま同保健所に保管した。その後、控訴人から前記の公衆浴場営業許可申請書が提出されたのに、訴外組合からは計算書を附記した図面の提出がないので、右保健所の係員が県の指示を求めたところ、県の係員は、測量士の有資格者が作成したもので、距離の記入がなされているものであれば、平板測量による測量図面でも差し支えないということであつた。訴外組合は、昭和三四年六月一一日、さきに持ち帰つた図面を、また、持参して、右保健所に提出したので、同保健所公衆衛生課の係員は、同日、訴外組合の右申請を受理することとし、保管中の訴外組合の右申請書を同保健所総務課の受付係に廻し、これに同日付の受付印を押捺した上、許可されてもよいとの同保健所長の副申書とともに、これを県に進達した。

以上のとおり認められる。

右の事実によれば、訴外組合の右申請は、昭和三四年六月六日、訴外組合から右保健所にその申請書が提出された時には、すでにこれを受理すべき要件を具備していたのであるが、それにも拘らず、係員において、まだその要件を具備していないと考え、右申請書に直ちに受付印を押捺せず、一時、その受理を見合わせたけれども、訴外組合としては、これに対処し得べき格別の手段もなく、その責に帰すべからざる事由によつて時日を徒過した後、同月一一日に至つて漸く受理されたことが明らかである。

さて、公衆浴場の営業許可についても、先願のものに優先権を与えるという原則は一応妥当するといつてよい。しかし、たとえば、鉱業権の設定などいわゆる特許の場合とは自から性質の異なるものがあり、その先願主義はしかく厳格なものとはいい難い(それ故にこそ、一方では鉱業法第二七条のような規定があるのに、他方にはこのような規定がない。)。したがつて、営業許可申請が殆んど同時に申請、受理されたような場合には、行政庁は事情にしたがい、同時に受理されたものとして同時処分の対象とすることもでき、時においては、形式的には後に受理されたものに優先権を与えることもでき、その程度の自由裁量権があると解する。

本件の場合について考えるに、前記認定事実および弁論の全趣旨によると、被控訴人は、本件両申請は殆んど同時になされたものであり、そして、形式的には受理が後になされた訴外組合の申請に優先権を与えるのが相当であると考えて本件許可に及んだものであり、しかも、かような処置が許されるような特別の事情にあつて、それは裁量権の範囲を逸脱するものでないことが明らかである。

なお、ちなみに、前記細則第七条に、「法、省令、条例及びこの規定によつて知事に提出する書類は、すべてその公衆浴場の所在地を管轄する保健所長(中略)を経由しなければならない。」とあるところからみて、訴外組合から右保健所に右申請書が提出され、右保健所に受理されたときは、その申請は、同保健所長に受理されたことになり、同時に、また、被控訴人に受理されたのと同一の効果を生ずるものと解すべきである。

そうしてみると、たとえ、控訴人と訴外組合との前記各公衆浴場営業許可申請が控訴人主張のような競願関係にあつたとしても、被控訴人が訴外組合に対してなした本件営業許可処分によつて控訴人主張の権利を侵害したことにはならない。したがつて、控訴人のこの点の違法の主張は理由がない。

次に、控訴人は、公衆浴場営業許可申請書に添付すべき図面は、閉合トラバース測量による測量図面に限られているのに拘らず、被控訴人が、右の方式によらないでした訴外組合の前記申請を受理し、これに対して本件営業許可処分をなしたのは違法であると主張する。

しかしながら、前記規則第一条や細則第二条第一項の規定は、公衆浴場営業許可申請書に添付すべき図面を閉合トラバース測量による測量図面に限定しているわけではなく、成立に争いのない甲第一八号証によれば、前記細則に関する広島県衛生部長の昭和三三年八月二〇日付各保健所長宛の書面においても、「八月一日広島県規則第五十五号(八月一日付)県報第五十九号登載をもつて右のことを施行したところであるがこれが取扱については左記により遺憾のないようお取り計い願います」として、第四項に、「図面とは測量図面だけに限定したものでなく印刷した地図又は手書きの図面も包括したものである」「なお提出する図面については左によるよう指導されたい」「(一)距離が三〇〇米前後であつて両者間に障害物がなくその距離が実測できる場合以外は閉合トラバース測量による測量図面とし計算書を附記すること」「この測量者は測量法に規定する測量士又は測量士補によることが望ましい」「(二)距離が五〇〇米以上あることを保健所長が何等かの方法(〇万分の一)地図による図上測定又は概略の実地測定等により確認した場合には(〇万分の一)地図にその距離を明示したものか又は手書によつてその距離を明示したもので足りること」「(三)焼失、災害等によつて再建する場合及び譲渡によるか又は営業者が死亡し継承のための名義変更をする場合等にあつては前号の図面で差し支えないこと」「(四)前三号以外の場合は平板測量による測量図によること」とされているけれども、その趣旨は、前記細則の規定の運用について、行政機関内部の事務取扱上の基準を示したものであることがうかがわれるに過ぎない。当審証人渡部徳造の証言のうち控訴人の主張に副う部分は信用し難く、他に控訴人の右の主張を認め得る資料は存在しない。

そうしてみると、前記のように、被控訴人が訴外組合の前記公衆浴場営業許可申請書に平板測量による測量図面の添付を認めたことが、たとえ、控訴人主張のように不当な取扱であつたとしても、直ちに違法とはいえないし、訴外組合の右申請が不適法であるということにもならない。したがつて、このような訴外組合の前記申請を受理し、これに対してなした被控訴人の本件営業許可処分も違法とはならない。これと異なる控訴人の主張は理由がない。

次に、控訴人は、訴外組合の前記公衆浴場営業許可申請は、その後、訴外組合が前記申請の浴場の設置の場所を変更したことによつて失効したと主張するので、この点について考えてみる。

訴外組合が、昭和三四年一〇月一九日、被控訴人に対して、前記公衆浴場営業許可申請書に記載した浴場の設置の場所を尾道市吉和町三〇九番地の四に変更することについて承認を求める旨の公衆浴場申請事項変更承認願を提出したことは、当事者間に争いがない。

しかし、前記細則第三条第二項の規定によれば、公衆浴場の設置の場所を変更するには新たな営業許可申請を必要とするものであり、公衆浴場営業許可申請については、同細則第二条第一項所定の方式によらねばならないことは前記のとおりであるから、訴外組合の前記公衆浴場申請事項変更承認願によつては、その浴場の設置の場所を変更することはできないし、これをもつて、直ちに訴外組合の当初の公衆浴場営業許可申請の撤回または取下をなしたものと認めることもできない。その他、本件各証拠によつても、控訴人の右の主張を認めるに足りる資料は存在しない。

したがつて、控訴人が、訴外組合の前記公衆浴場営業許可申請の失効を前提として、被控訴人の本件営業許可処分が、その申請がないのになされた違法のものであるとの主張は、その前提を欠き、採用することができない。

被控訴人の本件営業許可処分については、他に格別の違法事由の主張立証がないから、結局、適法であるといわざるを得ない。

しかるに、控訴人がこれと異なる主張に基づいて被控訴人の本件営業許可処分の無効確認を求める本訴請求は、すでに理由のないことが明白であつて、棄却を免れない。

第二、訴外吉和漁業協同組合に対する公衆浴場営業許可処分の取消請求について。

本案前の被控訴人の各主張、ならびに、本案に関する控訴人の各主張に対する判断は、前段の無効確認請求について示したところと同様である。

したがつて、被控訴人の本件営業許可処分が適法である以上、控訴人がこれと異なる主張に基づいて右処分の取消を求める本訴請求は、すでに失当であることが明らかであるから、棄却を免れない。

第三、控訴人に対する公衆浴場営業不許可処分の取消請求について。

被控訴人が、昭和三四年六月八日、控訴人のなした公衆浴場営業許可申請に対し、昭和三七年一月二三日、既設の訴外組合の浴場から三〇〇メートル以内の距離にあり、公衆浴場法施行条例第一条第一項に定める配置基準に適合せず、配置の適正を欠くとの理由で、不許可処分に付し、同月三〇日、控訴人にその通知書を交付したことは、当事者間に争いがない。

控訴人は、被控訴人が訴外組合に対してなした前記公衆浴場営業許可処分の違法を前提として、控訴人に対する本件営業不許可処分の違法を主張するけれども、訴外組合に対する前記許可処分の適法であることは、すでに前段において認定したとおりであり、公衆浴場法第二条第二項によれば、「都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。(以下省略)」とあり、第三項に、「前項の設置の場所の配置の基準については、都道府県が条例でこれを定める。」とあり、これを受けて、昭和二五年広島県条例第四五号公衆浴場法施行条例第一条第一項によれば、「公衆浴場を設置しようとする者は、既設の公衆浴場との距離を三百メートル以上保たなければならない。但し、知事は、土地の状況その他を考慮し、その距離をしんしやくすることができる。」と定められており、控訴人申請の浴場の設置の場所と訴外組合申請の浴場の設置の場所の間の距離が一〇メートル以内であることも前記のとおりであるから、他に違法事由について格別の主張立証のない以上、被控訴人が控訴人に対してなした本件営業不許可処分は適法というべきであつて、控訴人の右の主張は、理由がない。

したがつて、控訴人が、被控訴人の本件営業不許可処分を違法として、その取消を求める本訴請求は、もはや、この上の判断を加えるまでもなく、失当であることが明らかであるから、棄却を免れない。

結局、原判決は、その結論において相当であるから、本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柚木淳 浜田治 竹村寿)

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